温め直したら、甘くなりました

「言えないかも、ね……」


「かもじゃない。こんなのを結婚生活とは言わない。だから……これをひと月前くらいから用意していた」



集が、おもむろに上着の内ポケットから茶封筒を取り出す。



「――離婚届だ。俺の方は埋まってるし、証人は編集部の人間に頼んで書いてもらった。あとは茜が記入すれば……俺たちは終わりだ」


カサリとそれを開く。

綺麗な字で書かれた二階堂集の文字。


そっか……集はもう私と、離婚したいんだ。

そう思っても、寂しいとか悲しいとか、そういう類いの感情は湧かなかった。

……もういいか、終わりにしても。

私は店の奥のレジ横からボールペンを持ってきて、集の名前の隣に自分の名前をサラサラと書く。



「……できた。あとは判子ね」



そう言って再び立ち上がろうとした私の腕を、集が掴んだ。

……痛いくらいに、強い力で。

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