温め直したら、甘くなりました
うつむく集の表情は、見えない。
「……集?」
「あ、かね……やだ」
……やだ?
何を急に子供みたいな口調で――――
怪訝に思っていると、集はぱっと顔を上げる。
眼鏡の中は、涙でびっしょりだった。
「ちょっと、何泣いて……」
「なにじゃないよ……なんで躊躇いもなく離婚届にサインができるんだよぉ……」
うおぉん、と盛大に泣き始めた集。一体どうしちゃったの?
出会ってから一度も見たことのない彼の取り乱し様に、私はうろたえる。
「これを用意したのはあなたじゃない、私と別れたいんでしょう?」
「違う、もん……別れたくなんか、ない。離婚届を見せたら、いくら茜でも俺とのこと、ちゃんと考え直してくれると思ったんだ……なのに」
あっさり、サインするんだもん……そう言って、眼鏡を外した集は服の袖で涙をゴシゴシと拭った。