温め直したら、甘くなりました

「――助けてくださいっ!!」


私を見るや否や、必死の形相でそう言ってきたのは見たことのない男の人。

よれたポロシャツに破れたジーンズ、レンズの厚い黒縁眼鏡がずれてなんともみすぼらしい風貌だ。


……もしかして、食べるものに困っているのかしら。



「あの、何か食べますか?」


「おお!助かります。三日間コーヒー以外何も口にしてないので」



……やっぱり。


私は大きな鍋で作りかけだった汁を一人分小さな雪平鍋に移して、人参、大根、鶏肉、油揚げを煮て冷凍うどんを一玉投入した。



「……いい匂いですね」


「大したものじゃないですけど、体は温まりますから」



器に盛った煮込みうどんは最後にたっぷりの万能ネギを乗せて、カウンター席にお行儀よく座る彼の前に差し出した。


美味しそう、と言って丼を覗き込んだ彼の眼鏡があっという間に曇って、私は思わず笑ってしまった。

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