温め直したら、甘くなりました
とぼとぼとホテルから仕事場に向かう途中で、靴ひもが切れた。
黒猫を5匹見た。
カラスに襲われた。
それを、女子高生に笑われた。
「次は一体なんだ……?」
もう歩きたくない。いっそ、そこの路地裏に隠れて生臭くなってしまいたい。
俺が淀んだ瞳を向けたのは、さまざまな店のごみ箱やビールの空き瓶が置かれた薄暗い路地。
見たことのある場所のような気がする……と、辺りを見回した俺は、ある一点を見つめて心の活力を取り戻した。
「茜……」
弱り切った心が、俺の足を自然に茜の店に向けていたらしい。気が付けば俺が居たのはその店のある商店街だった。
茜に逢えばこんな気分もきっと癒される……
俺は夢遊病患者のようにふらふらと店に近づき、準備中の札を無視して引き戸に手をかけた。
ガラッと音を立てて開いた扉の向こうには、なにやら濃厚なキスをする一組のカップル。
いや、違う。カップル……なわけない。
だってあの和服美人の夫は――――俺だ。
…………見たくないものって、これかー!!!