温め直したら、甘くなりました

――今日初めて会った人。

名前も知らなければ過去も知らない。

ただ、自分の作った料理を美味しそうに食べてくれたってだけなのに……

何だか放っておけない。



「――私、このお店はずっと続けていきたいんです。だから、専業主婦になれと言うならお断りします」


「……続けていいと言ったら?」


「あなたの、妻になります」



勢いと言えば勢い。

決め手は何かと聞かれたら、はっきりとは答えられない。

でも、この人に美味しいものをもっと食べさせてあげたいと思った。

そしてまた、あの幸福の詰まったため息を聞きたい。



「……俺は二階堂集。あなたの名前を教えて?」


「林田、茜です」



私たちは、カウンター越しに見つめ合った。

……眼鏡が、邪魔だわ。

私はそう思って、さっきからずっと外してみたかった彼の眼鏡に手を掛ける。



「やっぱり……こっちの方が素敵」


「茜が見えないよ」


「見なくていいわ、感じて」



私はそう言ってカウンターから身を乗り出し、彼の唇を奪った。

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