【続】隣の家の四兄弟
「そう…じゃ、なくて…」
目を泳がせて私は同じ言葉を言う。
他のメニューなら、こんな風に気になったりしない。
チハルが求めたものだからでもない。
――浩一さんが、『食べたい』って言ったから……。
“お母さんのポテサラ”を、食べたいって意味だと思ったから――。
「大事な役目だったかもしれないから……」
私がそう言った時に、エレベーターが来た。
扉が開くと、そこには誰も居なかった。
けれど、聖二は私を見たままで、エレベーターに見向きもしない。
「『大事な役目』……?」
「あ、あの…エレベーター来て、」
「いい」
なんとなく気まずい気がした私の言葉に被せるように、聖二が言う。
怒った…のかな…。
そりゃそうだよね。
この聖二がわざわざ私を連れ出した。それってすごいことなのに、夕食の心配してるって思われてるんだろうから。
――だけど、聖二はどこにいって、何するつもりだったんだろう。
それなりに、“デート”っぽいことでもする予定だったのかな。
だとしたら、私、自分でその楽しみ、潰しちゃったな……。
「はぁ…」
そんな自己嫌悪から出る溜め息が、心の中に留まらずに、無意識に口から出た。
「なに溜め息ついてんだ。行くぞ」
「えっ」
溜め息、うっかり出てたんだ…!
そう思った次に、『行くぞ』っていう単語に引っかかる。
行くぞって、どこに? 綾瀬家に戻るのかな?
だって、聖二はエレベーターに乗らずに、廊下を引き返してるんだから。
あーあ……。聖二のことだから、もう二度とこんなふうに誘ったりしてくんないかも。
とぼとぼと、聖二の背中を追って歩く。
ピタリと黒い靴が止まったのにあわせて自分の足も止め、顔を上げた。
――なに? なんで、止まったまま動かないの?
不思議に思って聖二の顔を見る。
すると、聖二が呆れた顔して言った。