製菓男子。
僕は乾燥棚に置いてある梱包済のクッキーを藤波さんに手渡す。
これはツバサのためだけに毎週焼いている『ポルボロン』というお菓子だ。
「ゼンくん、昨日はありがとう」
「お礼は僕じゃない。あの制服はこの子のだから」
「そうなんですか。助かりました」
ツバサはばっちり化粧を決めた顔で藤波さんに微笑みながら、ゆっくり頭を下げた。
長い睫が顔に陰影をつけていて、確かにこれだと女の子に見えなくもない。
「そ、そんな。わたしは過去の遺物を処分しただけで、お礼を言われることなんてしてませんからっ」
藤波さんが「顔を上げてください」と今にも泣きだしそうな弱々しい声を上げて恐縮しきっている。
「過去の遺物、ですか?」
「すいません、わたしの高校時代暗黒だったので」
僕はなんとなく藤波さんの高校時代を想像できる。
持ち前の美貌を長い前髪でひたすら隠し、卑屈に生活し、存在感なくすごしていたに違いない。
一ヶ月前を知らないツバサは今の藤波さんしかわからないから、察することもできないだろう。
それほど今の藤波さんは格段に垢抜けている。
「さっさと買えば?」
「お前な、お客さんなんだからその扱いは失礼だろ」
会話を聞いていたらしいミツキが僕の肩に手を回して、僕の顔を覗き込んだ。
販売スペースと厨房の間は扉がないとはいえ、半分は透明なアクリル板で仕切ってあるから狭いし暑苦しい。
「大丈夫です。我侭を言っているのは私のほうですから」
ツバサは一人称まで偽りながら会計をする。
そして「ありがとうございました」と言って店を出た。
これはツバサのためだけに毎週焼いている『ポルボロン』というお菓子だ。
「ゼンくん、昨日はありがとう」
「お礼は僕じゃない。あの制服はこの子のだから」
「そうなんですか。助かりました」
ツバサはばっちり化粧を決めた顔で藤波さんに微笑みながら、ゆっくり頭を下げた。
長い睫が顔に陰影をつけていて、確かにこれだと女の子に見えなくもない。
「そ、そんな。わたしは過去の遺物を処分しただけで、お礼を言われることなんてしてませんからっ」
藤波さんが「顔を上げてください」と今にも泣きだしそうな弱々しい声を上げて恐縮しきっている。
「過去の遺物、ですか?」
「すいません、わたしの高校時代暗黒だったので」
僕はなんとなく藤波さんの高校時代を想像できる。
持ち前の美貌を長い前髪でひたすら隠し、卑屈に生活し、存在感なくすごしていたに違いない。
一ヶ月前を知らないツバサは今の藤波さんしかわからないから、察することもできないだろう。
それほど今の藤波さんは格段に垢抜けている。
「さっさと買えば?」
「お前な、お客さんなんだからその扱いは失礼だろ」
会話を聞いていたらしいミツキが僕の肩に手を回して、僕の顔を覗き込んだ。
販売スペースと厨房の間は扉がないとはいえ、半分は透明なアクリル板で仕切ってあるから狭いし暑苦しい。
「大丈夫です。我侭を言っているのは私のほうですから」
ツバサは一人称まで偽りながら会計をする。
そして「ありがとうございました」と言って店を出た。