製菓男子。
「うそ、ですよね?」


おずおずと上目遣いで藤波さんが確認してくる。


「うそじゃない、ほんと。藤波さん、会ってるでしょ?」
「えっ、どこでですか?」
「書店で、傘貸した」


藤波さんは言葉にならない悲鳴を上げながら、はらりと涙が落ちた。
藤波さんの場合、悲しいときだけでなく驚くときも涙が出ると学習しておこう。


オーブンタイマーが鳴って、咄嗟に僕はかけ時計を確認する。


「もう、十二時半。行かなくちゃ」


一時からレッスンの予約が入っている。
焼き上がったばかりのドロップクッキーを天板に載せたまま乾燥棚の上に置いた。


「あとよろしく」


店を出るとき藤波さんとミツキが「声も女の子なのに、うそだろ」と会話を交わしていた。
僕が嘘をつくメリットなどないことは一目瞭然だというのに。


ただツバサは声変わりが遅かった。
今もその途中だから、ハスキーボイスに聞えなくもないかなと少しだけ思った。



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