製菓男子。
「先生はバタークッキーを作らないんですか?」


篠塚さまの質問に「作りますよ」と答える。
篠塚さまはいつみても弾むようなパーマをかけていて、作業中だけは一本に束ねている。
吉野さまは艶やかな黒髪を髪留めで止めている。
ふたりの職業は幼稚園と高校勤務で、同じ“先生”という立場でも保護者の風当たりが違うと以前言っていた気がする。


「お店では売らないんですよね?」
「ミツキが乳製品アレルギーなんですよ」


子供のころの話だけれど、今でも苦手意識があるらしい。


「そうだったんですね!」
「乳製品を使ったものは基本的に販売しません。代用として豆乳を使っています。けれど、やむを得ない事情があって相談されたときは、客注品として作るようにしています」


これは僕が個人的にやっていることで、ミツキには黙認してもらっている。


「たとえばどんなときですか?」


篠塚さまは矢継ぎ早に質問を投げてくる。
好奇心が旺盛な人なのだろう。


「そうですね、今お受けしている方は“大切な人に笑顔になってもらいたいから”とおっしゃっています。ポルボロンというスペインのお菓子で、バターを多く使います。ポルボロンは幸福のお菓子と呼ばれていて、ひとつ食べ終わる前に「ポルボロン、ポルボロン、ポルボロン」と三回唱えると幸せになれる、願いが叶うなどという言い伝えがあるそうです」


私も食べてみたいと口々にふたりが言う。


「では、やむを得ない事情を僕に持ってきてくださいね」


冗談を言ったつもりだったけれど、篠塚さまは威勢のいい返事をした。


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