製菓男子。
荒川は週に三度はうちの店に顔を出している。
そのたびに「藤波さんのメイクの指導」などと言い、それを口実に会いにきている。
荒川が普段見せる勝気な瞳は、藤波さんを見つめるときだけ息を潜めている。
「すきなだけなんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、それだけじゃないってこと。ゼンも一応、聞いてるだろ? 暴行未遂の犯人」
荒川の勤める美容室は指名制で、彼は数少ない男性店員だ。
荒川にも固定客が数十人もいるらしく、その中のひとりに妄想壁の女性がいたようだ。
たまたまその月曜日に来店した藤波さんが荒川を独占したために、自分が担当してもらえなかった。
しかも彼女は荒川とつきあっていると思い込んでいる。
彼女の危ない知人に荒川を襲わせ、「浮気を二度としない」と誓わせようと脅迫していたところに藤波が現れた。
「ようするにシンジは、チヅルちゃんが逆恨みされていないかって心配してここに来ているんだよ。いろんな意味で目立つ子だからね、チヅルちゃんは。だけどやっかいなことにチヅルちゃんはそんなシンジの心情をおもんばからず、自分のせいでシンジがそういう目にあったと、たぶん思っている。自分の手に触れたからだって」
藤波さんは自分がまったくわるくなくても、自分の中に原因を見つけ、自分がわるいと思う癖がある。
「ちなみに俺がグレてたとき、親父に盛大に殴られたのもチヅルちゃんに会った月曜日」
ミツキがグレていたのは、中学時代だと聞いた。
高校で会ったときは、すでに今のミツキだったから、そのうわさはデマだと思っていたほどだった。
「俺、殴られる前後にエイタの家に行ってたんだよ」
「初めて聞いた」
「そりゃ言ってねーもん。ゼンはあまり人に、興味ないでしょ」
否定はしない。
黙っているとミツキは苦笑を顔に浮かべた。
「チヅルちゃんに興味が湧くと、芋づる式でほかの人やものにも興味が湧く。俺はいい傾向だと思うぞ」
俺もそうだったからとミツキは白い歯を見せて笑った。
そのときに作ってもらった藤波さんのお菓子がきっかけで、この店を開くまでに至ったのだという。
そのたびに「藤波さんのメイクの指導」などと言い、それを口実に会いにきている。
荒川が普段見せる勝気な瞳は、藤波さんを見つめるときだけ息を潜めている。
「すきなだけなんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、それだけじゃないってこと。ゼンも一応、聞いてるだろ? 暴行未遂の犯人」
荒川の勤める美容室は指名制で、彼は数少ない男性店員だ。
荒川にも固定客が数十人もいるらしく、その中のひとりに妄想壁の女性がいたようだ。
たまたまその月曜日に来店した藤波さんが荒川を独占したために、自分が担当してもらえなかった。
しかも彼女は荒川とつきあっていると思い込んでいる。
彼女の危ない知人に荒川を襲わせ、「浮気を二度としない」と誓わせようと脅迫していたところに藤波が現れた。
「ようするにシンジは、チヅルちゃんが逆恨みされていないかって心配してここに来ているんだよ。いろんな意味で目立つ子だからね、チヅルちゃんは。だけどやっかいなことにチヅルちゃんはそんなシンジの心情をおもんばからず、自分のせいでシンジがそういう目にあったと、たぶん思っている。自分の手に触れたからだって」
藤波さんは自分がまったくわるくなくても、自分の中に原因を見つけ、自分がわるいと思う癖がある。
「ちなみに俺がグレてたとき、親父に盛大に殴られたのもチヅルちゃんに会った月曜日」
ミツキがグレていたのは、中学時代だと聞いた。
高校で会ったときは、すでに今のミツキだったから、そのうわさはデマだと思っていたほどだった。
「俺、殴られる前後にエイタの家に行ってたんだよ」
「初めて聞いた」
「そりゃ言ってねーもん。ゼンはあまり人に、興味ないでしょ」
否定はしない。
黙っているとミツキは苦笑を顔に浮かべた。
「チヅルちゃんに興味が湧くと、芋づる式でほかの人やものにも興味が湧く。俺はいい傾向だと思うぞ」
俺もそうだったからとミツキは白い歯を見せて笑った。
そのときに作ってもらった藤波さんのお菓子がきっかけで、この店を開くまでに至ったのだという。