製菓男子。
「よくわかるね」
「なにがだ?」
「藤波さんのこと」


ミツキは鼻頭を掻いた。


「藤波さんによく似た女性をたまたま知ってただけだよ」


ミツキの照れる姿を久しぶりに見た気がする。


「彼女できたの?」


そんな素振りは見せていなかったように思うが。


「昔、な?」


ミツキも藤波と一緒で高校のときに知り合った。
それ以前のことも、やっぱり僕は知らない。
ミツキは特に過去を話したがらないから、聞くタイミングも今までなかった。


―――そもそも昔を語れるほど、ミツキも歳を取っていない気がするが。


「この話はもうおしまい。ゼンいい加減作れよ」
「まだいろいろと判然としない」
「しょうがないな。じゃ、今以上に全力でフォローするかー」


ミツキはまた片づけをはじめた。
定位置に道具を戻し、掃除をし、材料を補充する。
僕は二階に戻って準備だ。
明日のレッスンは酵母起こし。
レーズンエキスを確認するために、冷蔵庫を開けなきゃ。


< 115 / 236 >

この作品をシェア

pagetop