製菓男子。
宮崎さんはわたしの目もとを服の袖で拭ってから、「今いるお客さんで最後にしよう」と塩谷さんに相談しに中へ入った。
許可が下りたのか戻ってきた宮崎さんは「CLOSE」の札をドアに下げ、二階に戻っていった。
最後のお客さんを見送ったのは塩谷さんで、そのあとしばらく来店してくれたお客さんに「またお越しください」と頭を下げていた。
そんな背中をわたしは店内で見ている。


おばかな蛇口みたいにわたしの瞳から涙が溢れ続けた。
しめてもしめても止まらない。


(やっぱり、わたしのせいでごめんなさい)


売れ残った品物を前に塩谷さんはどんな気分で閉店を許可したんだろう。
「ゼンは気分屋だから仕方がない」って笑っていたけれど。


(わたしにもっと対応スキルがあれば、こんなことにはならなかったのかな)


わたしの学生時代は「停止」の状態だった。
常に兄と比べられ、「妹」という立場を勝手にうらやましがられる。
わたしはその人たちの期待に応えられなくて、人気のないところに呼び出されたり、教科書を隠されたり、嫌味を言われたり。
そんなにいやだったら、そもそもわたしに関わらなければいいし、空気のように扱って欲しかったのだけれど、わたしの反応を楽しんでいるようだった。
女子がそんなだったから、男子も便乗するような反応を見せていた。


だから、耐えた。
耐えるしかないと思った。


けれど今は、あのとき、頼ればよかったんじゃないかと思った。
先生に、父に、元凶である兄に。
そうであったなら、こんな偏屈な性格にわたしはならなかっただろうし、もっと違う未来があったんじゃないかって。
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