製菓男子。
店を出ると塩谷さんが振り向いた。
わたしのことをすべてお見通しと言わんばかりの笑顔で「今日はもう上がっていいよ」と言った。


「今日はあんなことがあったし、できるなら早く帰ったほうがいいと思うんだ。それに時間がたっぷりあるから、俺とゼンで掃除できるからさ。その代わり、あさってから頑張って働いてね」


塩谷さんの笑顔はバリエーションが豊富で、お客さんにあわせてひとりひとりに丁寧に向けられる。
その笑顔を今独占していることが、贅沢すぎる。


(わたしの涙腺、弱すぎるなぁ)


再びじわりと滲みだした視界をなんとか戻そうと上を向いた。


塩谷さんだけでなく、宮崎さんもやさしい。
添加物が入っていない生クリームみたいに。
今日は特に、そんな生クリームを食べるごとに泣いてしまいそうだから、素直に甘えたほうがいいのかもしれない。


(これじゃ別の意味で仕事にならないもんね。これ以上迷惑をかけないように、明日はきちんと引きこもっていないと)



< 136 / 236 >

この作品をシェア

pagetop