製菓男子。
研究ノートと言っても過言ではないくらいに、走り書きやト書きがたくさんあった。
砂糖を五グラム減らしたほうが甘みが際立つ、クミンを入れるとよい、今日の天気は晴れ、兄のテストが九十五点などレシピのこと以外にも様々なことが書かれている。
そういった文章は読解できるものが少なくて、それらが数ページくらい続き、その後清書らしき完成したレシピが書かれていた。


わたしの中にあるレシピは、母が残した大量の本とそれらのノートから伝授してもらっている。
けれどノートに関しては何度も読んでいるはずなのに、どうも記憶がすっぽり抜け落ちている。
初めて読んだときのような、新鮮な驚きがそのノートに溢れていた。


「わたし、当時から手袋があまりすきじゃなくて。嵌めても嵌めなくても触れれば未来は見えちゃうし、手は蒸れて痒くなるし―――わたしに苦悩する母も、そのノートの中にいました」




“手袋がまた隠されたようだ、あってもなくても意味なし。いっそのことないまま通わせよう。”
“娘がまた「おおかみ少女」と呼ばれた、嘘はひとつもついていないのに。”
“娘が腐らずに育つ方法はないだろうか。もうすこしエイタが頼りになるといいんだけど。”




「わたし、母とは血が繋がっていなくて、でも、すっごくわたしに、だれよりもわたしにやさしかった。お菓子を作ることで、わたしを元気にさせたかったみたいです。どんな辛いことがあっても“お菓子は人の心をほぐすんだよ”って」
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