製菓男子。
僕は吐息を落とし、取っ手に手を伸ばす。
引いても押しても、確かにビクともしない。
けれどこれは、人の力というより―――


「鍵、壊れてるんだよね?」
「そうだけど」


このドアは外からでも開けられるように、コインの大きさにあう細い溝がついている。
それが微かに斜めになっていて、ひっかかるように鍵がかかってしまっている、と推測する。
それをポケットに入っていた十円で垂直に戻し、再び取っ手を握り押す。
ドアが開き、同時に人が吹っ飛ぶ感触がした。
慌てて部屋に入ると、しりもちをついた妹がいた。


「怪我ない?」


妹は反応をしめさないし、長い前髪で表情も見えない。
なにかあっては大変だと、彼女の前髪をカーテンのようにわける。
そこからのぞいた瞳は生後間もない子猫のように濡れそぼって、不安を纏っている。
呼吸も覚束ないようで微かに口が開いて、その唇は夜露に濡れたようにしっとりしている。
妹の顔は子供と大人の極端な狭間にいるようだった。
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