あなたが教えてくれた世界
「……ああ」
問いの意味を理解したその男──カルロは、ひどく平坦な声をあげた。
「さっきの門破りのこと?あれくらい大したことじゃないでしょ」
「……?」
その声に、彼女は違和感を覚える。
恐ろしいほどに機械的で冷淡で……それまでの軽薄な言動をしていたときと、なんと言うか空気が違う。
確かに障害物を体当たりで蹴散らすのは騎馬の常套句。その言葉は合っている、のだが……。
馬がもらした苦しそうないななき。通常あのようなものは滅多に出ない。つまり、あれは馬に無理をさせていたと言えるのではないのか──。
「……だって、そのための馬でしょ?」
「……え?」
今度こそ、ブレンダの戸惑いが声に出た。
彼女の抱いていたこの男のイメージと、この言葉の含むニュアンスが合致しない。
確かに彼の言葉は合っている、のだが。
彼女にはそれが、『自分達の任務を遂行出来れば馬の苦痛など厭わない』と聞こえた気がしたのだ。
「…………」
──だが、何も言えなかった。
馬を見つめる彼の瞳が、ひどく暗く冷たいものに見えたから。
(何だ……?)
不覚にも、一瞬その眼の色に、恐怖すら覚えた気がした。
「……どうしたの?ブレンダ、早く行くよ?」
が、一瞬してこちらを促したときには、それはいつもの──知っているものに戻っていた。
(考えすぎか……)
ブレンダは返事を返しつつ、思考からカルロを蹴飛ばした。
大事な時に、こんな男のことを考えているなど信じられん。
──気を取り直したブレンダの頭の中には、アルディスの姿の他、余分なものは何もなかった。