あなたが教えてくれた世界
幼い頃家庭教師に言われ続けた言葉を思い 出すリリアス。
『あなたが妙な行動をしたらあなたより先 に皇王様が迷惑なさるのです。それをご理 解なさい』
そう。彼女は王女なのだ。本来ならここに 逃げ出していることもいけないはずである 。
(……ここにいる間は、無駄な事は考えず にただ自分の使命をまっとうしなければ)
そこまで考えたリリアスは、ふとパニック に陥る前に自分がしていたことを思い出し た。
(……そう言えば、あれはどのような意味 だったのだろう……?)
セントハーヴェス侯爵が去る前にウインク と共に言った言葉だ。
『いや、父には自分の旅行記を話すつもり はないよ』
『旅行記』と言うのは、そのままこの国の 情報の事だろう。
すなわち……スパイが目的で来たのではな いという事か?
いや、探ってはいるが、誰かに指示されて の行動ではないという意味かもしれない。
(……わからない……)
リリアスは、やはり自分はこの世界ではま だまだ経験の浅い若輩者だと痛感した。
とすると、あの笑みは分不相応な事をした 私への嘲弄の笑みだったのか。
(私はお人形に過ぎないってわけか……)
悔しいと言うよりは情けなさに唇を噛むリ リアス。
「──お客様、お飲み物お注ぎしましょう か?」
不意に背後から声をかけられ、彼女はびく りとして振り向いた。
が、声の主を見た途端、その緊張感はすぐ にほぐれる。
そこにいたのは、彼女自信の使用人長のオ リビア・カスターニだった。
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