あなたが教えてくれた世界
そうなのだ。彼女もそこを不審に思ってい た。
「無かった……と思う」
「そう……」
オリビアは口を開きかけたが、ふと周りに 油断なく目を向けると、
「それでは、ごゆっくりお食事お楽しみ下 さい」
一介の使用人の顔に戻って去って行った。
リリアスも頭を切り替え、この会の事だけ を考えながら、オリビアのいれてくれた飲 み物を口に含む。
と、彼女は不意に背後から自分への視線を 感じた。
(……?)
即座に警戒値を高めながら、振り返るわけ にはいかないので気配だけで伺ってみる。
注意深く耳をこらすと、こそこそとした会 話が聞こえてきた。
「……あれが第二王女のリリアス・デ・イ ルサレムだよ」
「……ふむ、確かに容姿は良いな。皇王陛 下が気をかけるのもわかる」
「しかし、いつまでもままごとをしてない で戦況に目を向けて欲しい。皇王としての 義務を果たしてくれ」
「やはり、あれは皇王の器じゃない」
……会話を聞いていると、どうやらこち
らを快く思っていない集団のようだ。
前に父親から聞いた事がある。戦争政策で 対立の立場にあるグループがあると……。
「奴は王家入りする前にどんな教育を受け てきたのか知りたいくらいですな」
リリアスは父親を愚弄された怒りをおさえ つつ冷静に分析する。これは……カリナル セ伯爵のものだ。
「まあ、ままごと陛下にこれ以上無駄な期 待をかけるのはやめましょう」
彼女は『ままごと』という言葉にカチンと 来ながらも、これはバランディウム侯爵だ と確信する。
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