あなたが教えてくれた世界



彼は皇王の彼女への溺愛っぷりを宮廷内で 吹聴しているらしいが、全くの事実無根で ある。何しろろくに会うことも出来ないの だから。


それに、彼の孫娘の溺愛っぷりの方が有名 である。意地悪そうな顔つきをしたあの子 に趣味の悪い豪華な服を着させて何が楽し いのだろうか。


「そうだな。だから我々は、こちらの理想 の実現に励もうではないか」


これはシドニゥス公爵だ。父親によると、 敵対グループの親玉。


小耳に挟んだ話では、皇王候補だったころ から対立していたらしい。


そして、その戦いに破れると今度は政治に 口を挟み、妨害するようになったそうだ。


それと彼は、巧みな話術で自分の考えに誘 導させるという。


ということは、今の言葉も誘導させている のか?


一気に警戒値を最大に引き上げながら、空 になったお皿を手に立ち上がる。


料理を取りに行くふりをして近づき、もっ と詳しく偵察してみようと思ったのだ。


「でもどうするんです?曲がりなりにも皇 王陛下なのですから、おおっぴらに邪魔す るわけにはいかないでしょう」


「だから見つからぬように行動するのだ。 まあ、どうせそこまでの洞察力もないだろ うがな」


彼女は充分彼らの声が届く所まで行き、料 理を取るトングを手にした。


「反乱を起こすのですか。しかし、一体ど うやって……」


「民衆の力を利用すればいい。戦争に何の 行動も起こさない皇王陛下に、いい加減不 満も貯まってるころだろうからな」


「それなら、我々は今まで以上に結束して あの男が行動するのを防がなければならな い」


リリアスは耳を疑う。


これは国家転覆を企む作戦会議ではないか 。それを、なぜこんなところで?



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