あなたが教えてくれた世界


いくら楽団の演奏と人々の喧騒で小声の会 話はさして聞こえないとしても、なんて大 胆な。


「それからやはり、軍部の力をおさえるべ きでしょうな」


「私の弟が軍の特別将校をつとめておりますゆえ、潜入は容易いかと」


鴨のローストを取ろうとしたとき、段々声 がこちらに近付いて来たので、リリアスは 飛び上がらんばかりに驚いた。なぜこちら に来る!!


「しかし、今国に残っている皇国騎士団員 は使えないものばかりではないか」


「それでもないよりはましだろう。中心の 攻撃は、シドニゥス公爵様の手勢を使えば よかろう」


しかし、それでも彼らは全く警戒していな い。こちらの存在をわかっていないのだろ うか。


いい加減頭に来たリリアスは、近くのメイ ドに真っ赤なワインを注いでもらうと、ゆ ったりした足どりで彼らのもとへ歩く。


そして通りすぎると言う時に。


「わっ」


小さな悲鳴と共に自らの足を躓かせる。も ちろん計算しつくした演技だ。


と同時に右手に持っていたワインを近くに いた紳士(都合よく白い服を着ている)に振 りかけた。


「あっ」


「あっ」


焦ったような声を出すリリアスと、振り向 いたその人との目があった。この顔は、カ リナルセ伯爵だったか。


「失礼しました!!ちょっと躓いてしまい… …。まあ、お召し物が……」


彼女は甲高い声を出して頭をさげる。騒ぎ の中心が王女なので、次々と他の客の注目 が集まってくる。


カリナルセ伯爵は服の事より王女がいるこ とに気まずそうな顔をした。当然であろう 。今までそれを覆そうと言う相談をしてい たのだから。


使用人が慌ただしく濡れた布を持って駆け 寄り、伯爵の服の染み抜きに取りかかった 。



        ─31─
< 31 / 274 >

この作品をシェア

pagetop