あなたが教えてくれた世界
「いやね、ちょっと人々の喧騒に酔ってし まって、お腹も空いたし一息つこうと思っ たら、見目麗しい女性が一人でいるではな いか。これは男の血が騒ぐ。そして来てみ たら畏れ多い王女様であったというわけだ 」
彼のよく動く口を眺めながら、これには何 か意味が込められているのかとリリアスは 疑問に思った。あまり含みは感じられなか ったが。
(……まあ良いか……)
リリアスはこっそり溜め息をついた。
どうせ自分のレベルは彼の足下にも及ばな いのだ。
「侯爵、ちょっと褒めすぎです……」
恐縮している彼女にお構い無く侯爵は向か い側の席に座る。
「お父様とはどのようなお話をなさったの ですか?」
単純な興味をもち、リリアスはそう尋ねて みた。彼がスパイだとしたら、どんなこと を訊いているのだろうか。
「うん?ああ、陛下様の戦争についての考 えを聞いてみたんだよ」
(……それだけ?)
「先ほども言った通り、プラニアスとは縁 遠い話だから、参考にと思ってね」
物足りない答えに彼女は眉をひそめたが、 口調と様子にごまかしや嘘は感じられなか った。
とりあえずその言葉を信じる事にすると、 彼はスパイでは無いようである。
「信じていただけましたかな。姫」
リリアスはその言葉に驚いた。まるでこち らの心の底を見透かされているようだ。
「……もちろんです、侯爵」
彼女は微笑んだが、強張っていないか心配 である。
「それは良かった。時に姫、姫自身は戦争 に対してどのようなお考えをおもちで?」
「はい?」
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