あなたが教えてくれた世界
つまり、王女という立場に生まれついたか らには、それは変えようのない運命なのだ 。
「……それがこの国のためとなるなら、私 はそれを受け入れます」
「それを惜しいと言うのです。あなたはこ こに残り政治に関わっていくべき価値があ る」
リリアスは少し考えてみる。もし彼女が行 った場合、従兄弟のサントスがこの国をに なう事になるのだろう。
王家の血をもちながら、正式な王位継承者 でない彼は、とにかく欲と野望が大きい。
確かに、彼に国を委ねるのは少し……いや かなり不安である。
どちらにしても気まずくなり、リリアスは 俯いた。
「支配階級の人間は利己的思考ではいけな い。これは私の勝手な意見なのだがね。君 は必要な人材だよ」
「そうなのでしょうが、しかし……」
反論しようとした彼女を手で制し、侯爵は 続ける。
「それに姫、あなたも行きたくは無いので しょう?」
リリアスはぐっと詰まった。同時に、臆病 な自分……アルディスの存在を思い出した のだ。
自分の中に彼女が存在する限りリリアスは 嫁ぐわけにはいかない。
いや、嫁ぐことは出来ない。
気にしなくても良いと何度も言い聞かせた 。だって、彼女は私じゃないのだから…… 。
でも、やはり頭のすみにちらついてしまう のだ。
(いっそ、彼女が存在していなくなれば良 いのに……)
「……姫どうしました?顔色が優れないよ うだが」
侯爵にそう言われて、不意にリリアスは現 実に引き戻された。
「あ……いえ、大丈夫です。お気になさら ないで」
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