あなたが教えてくれた世界



「そうなら良いのだが。姫、やはり行きた くないのですか」


うかつな事は言えないと、彼女は気を引き 締める。


「……そうせよとお父様がおっしゃるのな ら、私はそれに従います」


「私が訊いているのはそのような事ではな く、あなた自身がどう思っているかです」


侯爵は鋭い声でそう言った。


仕方がない、と諦めながら、リリアスは慎 重に言葉を選びながら口を開く。


「……イルサレム皇国は、私が生まれ育っ た地ですから、離れがたい思いがあるのは 確かです。もちろん、ディオバウン王国に も沢山の魅力を感じますが」


「そうだろうね」


「……それに、まだ私は他国の王女として 嫁ぐほどの器ではございません。まだまだ 未熟ですから……」


これは、彼女の中ではアルディスの事であ る。


彼女が口を閉ざすと、侯爵も口を開いた。


「姫、それはつまり、今は行きたくないと 言う意味ですよね」


「ええ……まあ」


「そして学ぶ事があると?」


「……そのようになります」


彼女が渋々答えると、侯爵は満足そうに立 ち上がった。


「わかりました姫。では、私はこれで失礼 いたします。まだまだ話を聞きたい人は沢 山いますので」


そして、リリアスに反論させる隙も与えず に彼はいなくなってしまった。


(……早い……)


まるで私の口から行きたくないと言わせた かったみたいだと彼女は思った。


いや……もしかしてその通りなのだろうか?



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