あなたが教えてくれた世界



そして、部屋の隅に立っているセントハー ヴェス侯爵。


(あっ……)


侯爵は彼女の姿を認めると、こっそり片目 をつぶってみせた。


あのウインクはこのことだったのかと合点 がいったリリアスである。


それにしても、皇王といるので、侯爵は少 なくともこちらの味方だということなのだ ろうか。


思案する彼女に向かって、フレグリオが口 を開いた。


「久しぶりだなアルディス。元気にしてい たか?」


彼の顔からは、久しぶりに愛娘に会えて嬉 しいという純粋な喜びが感じられた。


それにつられ、彼女も考えるのをやめ、久 々の父に微笑みかける。殆ど予想がついて いたせいもあるが。


「お久しぶりです、お父様。私は変わらず 元気にしていました」


「そうか。それは良かった。それで、ここ に呼んだ理由だが……」


いよいよだ、とリリアスは思った。彼女は 、先ほど侯爵に告げられた事に関係してい るのだろうと推察している。


「侯爵から聞いただろう。お前をディオバ ウンとの和平のしるしに嫁がせると言う話 があると言うことを」


(やっぱり……)


彼女は思わず身構えた。これから正式に、 行く事を申し渡されるのだろうか。


いくら父親と言えども、戦況が悪いのなら そう判断してしまうのかもしれない。


が、次に言われたのは思いもかけない言葉 だった。


「このような事を言って許される立場では ないが、私はそうさせたくないと思ってい る」


想定外だったので、思わず顔をあげてしま うリリアス。


「それを阻止させるにはどうすれば良いの か。色々と考えたすえ、最も良いのはお前 を宮廷から逃亡させる事だという結論に至 った」



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