みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
その言葉で清々しい気分など一瞬で消え失せる。それでもドアを閉め、ずかずかハイヒールで最奥を目指して歩く。
「なにが?」
今日も席についてPCを叩きながら、こちらを一切見ようともしない無礼なヤツだ。なので私も遠慮なく腕組みをして聞くことにしている。
「――常務に頼まれた書類、なぜ作った?」
ああそのことか、と腕組みを止めるとひとつ溜め息をつく。
彼が言ったのは、金曜日に後輩が概況報告に手こずっていて私が残業してイチから作成し直した件だろう。
相変わらず、カタカタと高速でPCを打つ態度に苦言を呈したくもなるがさすがに我慢するのも慣れた。
「同じことを2度失敗されたら、さすがに自分でやる方が早い…」
「それだからいつまでも失敗がなくならない。――最後はやってくれるって甘えが出るんだよ」
「っ、」
「そうだろ?俺は無駄は嫌うが部下の指導は怠らない。それが互いのためになる」
そこで顔を上げ、レンズ越しに非難の目が向けられる。ぐうの音も出ないとはこのことだ。