みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
「役立たずを作るのは上の責任だ。よく覚えとけ」
「……すみませんでした」
「ふーん」と、余計にこちらの心情を揺さぶる反応が返ってきた。
ついに頭の中で何かがぶちん、と切れる。どうも私の沸点は低いらしい。
「部下の珍しい謝罪を素直に聞き入れないわけ?」
「それを精査する暇はない」
「へーあっそう!それは失礼しましたっ!」
「朝からうるさい。女ならもう少し落ち着きを覚えとけ」
面倒くさそうに嘆息したこの男が、YASHA内で“例の人”と呼ばれる男。
名前は田中 和尊(たなかわたる)。名前から堅苦しさの漂う同い年の同期だ。
アホ毛って何?というほど完璧にセットされたオールバック。そしてスクエアタイプのメガネに、浅黒い体格の良い身体を包む上質な生地のブラックスーツ。
身体的特徴だけでヤツの印象が留まれば良いというのに。
「余計なお世話なんだけど!」
この性格の悪さを前面に押し出した声と態度のせいで、私のストレスは溜まりまくりだ。
「負け犬の遠吠えか、朝っぱらから」
「男尊女卑!差別!セクハラ!」
「あくまで同僚へのアドバイスだ」
既にPCを注視していたヤツのダメ押しに、キーっと発狂したくなる。――負け犬って言うな!
そこに「それともうひとつ」と、冷たく低い声音が静かに響いた。