みだりな逢瀬-それぞれの刹那-


そのひと声の単調さが悔しくて、「何か?」とつい刺々しい声になってしまう。



「もう少し音量落とせ。その声、耳障り」


今日はそう来たか。――これほどまでに酷い男なんか出くわしたことはないわ。


「ご忠告ど・う・もっ!」

語尾を荒立ながら、はたと気づく。……これでは本当に、私は負け犬の遠吠えをしているのと同じではないかと。


「静かに歩け」

「うるさいわっ!」

せっかく休日にストレスフリーとなってきたのに、オフィスに入ってたった数分でストレスフル状態へシフトだ。


ムカつきながら踵を返せば、背後からかかったダメ押しの通りにヒールが滑稽な音を立てていた。


微妙な空気が漂う中、オフィスチェアに勢いよく着席する。


会話も途切れすっかり静寂と化した中、底意地悪い男の意識はとっくにPC一点にしかない。


いつまでも根に持てば、本当に負け犬のレッテルを貼られてしまうのは明白。


抑えろ抑えろと念じつつ、苛立ちとオサラバするためのミントタブレットを手に取って口へと数粒放り込む。


途端にスーっとした清涼感が口の中に広がり、少しばかり心を落ち着けてくれるアイテムだ。


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