みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
正直なところ、両親の姿を見てきたせいか私の結婚観は屈折しきっていた。
あのままだったら私は大学卒業後、きっと父の決めた相手と“家のために”結婚していただろう。
それがガラッと変わったのは、いま電話をしている彼――叶と知り合ってから。
「もう1年経つって早いな」
「うん、ほんとだね。……あと1年かぁ」
今日は現在、イギリスのケンブリッジ大学で修士号を取るべく留学中。
イギリスの大学院は1年で修士課程が得られるのだけど、彼は特別にもう1年残るそうだ。
ちなみに私は国内の一般企業でOLをしているので、彼とは遠距離の毎日になる。
行かないでなんて言えなかった。お父様の会社を継ぐ彼に必要な時間を邪魔したくないと。
ただ、忙しい合間を縫って連絡をくれる彼を信頼していたからそこまでの不安はなかった。