みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
振り返ると日々の疲れは前よりも取れにくくなり、休日も自身の身を奮い立たせて朱祢のお家を訪ねていた。
そこからも病の兆候はあったのに。私は薬で誤魔化して大切なサインを悉く見逃していたのだ。
痛みを耐えるのは当たり前だ、と妙な意地を張って。何種類もの頭痛薬に頼る異常な毎日を、今日まで誰にも相談することが出来なかった。
信頼のおける人、叶がイギリスで頑張っているのに小さな弱音を吐いて困らせたくなかったから。
それを素直に反省すると同時に、病気を打ち負かすために頑張らなきゃと医師の声に耳を傾ける。
放射線治療や手術で治るのなら、いくらでも挑むつもりだった。でも、癌細胞は年齢が若いほどその成長スピードを増す。
MRIにCTと脳内を鮮明に映し出した画像の数々は、素人にも病気の在りかをあっさりと教えてくれた。
それらを付き添いで来てくれた半分血の繋がっている妹と無言で見つめながら、今まで感じていた数々の症状に幾度となく納得する。
医師いわく、発見時期はさることながら腫瘍が出来た箇所もまた悪かったらしい。
脳幹という生命を司る箇所の近くで癌細胞が出来ているため、いずれその近くの視神経などにも障害が及ぶだろうと。
つまりそう遠くない未来に私は、目が見えなくなったり、読み書きや話すことも儘ならなくなるらしい。脳は生きるのに必要な器官の集合体だと改めて学んだ。
――今まで出来て当たり前のことが出来なくなる恐怖。それがもう目の前に迫っている。
これだけで頭がパンクしそうなのに、さらに癌細胞は他の箇所への転移も見られると医師は言った。