みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
俺は『信じない』と口では言いつつも、電話越しの酷薄な笑い声で自信を失っていた。
『彼とのセックスで初めて絶頂を教えて貰ったわ。…あと、何が聞きたい?何なら、全部教えても良いわよ』
誰が浮気相手とのコトを詳細に聞きたがる?しかも、その相手はよく知る先輩。
やり場のない怒りと、数年かけて築いてきたはずの絆はこんなにも脆いのかと絶望した。
もう俺の知ってる透子じゃないのか?――変化を知らされるのも恐ろしく感じ、込み上げる悲しみには閉口する外ない。
仕方なく『分かった』と別れを了承したものの、頭の中では理解も納得もしていなかった。
あんな数分の会話でピリオドをつけたくない、という若さゆえの悪足掻きだったんだろう。
そのために当時、学生の俺が国を越えてどれほど手を尽くしたか。……それは口にしない。
ただ彼女と直接会ってきちんと話をしたかった。まだ関係修復には間に合う、と一縷の望みに賭けていたのかもしれない。
情けなくても、みっともなくても、恥さらしでも構わないほど愛した彼女を失うのが怖かったのだろう。