みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
彼女のことを諦めてはいない。だが、何を信じて何をすべきか一切の判断がつかなくなっていた。
別れの理由がよく知る先輩との浮気。だが当事者の先輩は、それを嘘だと言う。そして、忽然と姿を消した彼女。
――正しいものを見分けること以上に、自分自身を見失っていたというのが正しいだろう。
あれほど必死に積み重ねてきたものはガラガラと音を立て呆気なく崩れ、大学の研究さえ意味のないものに感じた。
たかが女ひとりで、と口々に言われた。次はもっとイイ女見つけろよ、とも言われた。どれも俺を励ます意味だと頭では理解出来た。
しかし、どの言葉も受け入れられずに心を閉ざしていた。完全にひとりぼっちになった方が楽だなとさえ考えるくらいに。
その頃、彼女の浮気相手こと里村さんから、“透子の別れの理由も知らないでいい気なものだな”と嫌味混じりの連絡を受けた。
“余計なお世話だ”と突っ撥ねてしまったのは、二度目に傷つくことを恐れたがゆえ。実に情けない感情に負けたガキだった。