みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
――後悔するなんてその時、分かる訳もなかった。ポッカリ穴のあいた心の傷がまた開くとも知らないで。
大学で研究に没頭していると、少しずつ冷静さと日常を取り戻していくことが出来た。
心の空虚感は知識を埋め込んでおけば良い、と考えていた俺は真正のバカだ。
その後、帰国して入社の準備に取り掛かっていた最中、訃報に触れた俺は俄かに信じらなかった。
――元気だけが取り柄だと言っていた透子が死んだなんて嘘だろう?と。
だが、現実は惨い。アメリカから無言の帰国を果たした彼女は、もう俺の知っている笑顔を見せてはくれなかった。
何も知らなかった。どうして教えてくれなかったの?と、参列者は涙とともに悔しさを滲ませていた。
なぜ気づいてやれなかったのか。なぜ分からなかったのか。……透子が人のためにしか嘘を言わない性格なことを。
好きだった花が散りばめられた棺の中で、壮絶な闘病生活を終えた透子に、そんな俺がなんと声をかけられたというのか。
大きな祭壇に飾られた遺影が目に入った。それは留学直前、ふたりで行った京都旅行の時の一枚。俺が一眼レフで撮った透子の笑顔だった。
なぜ分かったかって?そんなの簡単だ。――あの時に贈った、ホースシュー型のネックレスが首元で輝いてたから。