みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
焼香を待っている間、ジッと遺影を無言で見つめていた。悲しいのに、悔しいのに、狂い出してしまいそうだったのに。
泣けたらまだ良かったのに。泣きたくても水源が枯渇したように、目から涙はひと筋も流すことが出来なかった。
目を閉じれば、今も『叶!』と高い声で俺を呼ぶ顔が鮮やかに浮かんでくる。
まだ透子がそこにいるような気がして。いま泣けば彼女が遠くへ行ってしまう気がして。
あまりに突然、愛した人が亡くなった事実を呑み込めていなかったのかもしれない。
みっともなく探し続けた最愛の透子との再会が最悪の形になり、現実を受け入れる時間すら皆無だったのは確か。
しかし、どんなに辛くて後悔が渦巻いていようとも、もう彼女は戻らない。第一、俺に泣く資格はなかった。