みだりな逢瀬-それぞれの刹那-


「専務」と、狭い空間に響く声で彼を見る。


「その呼び方嫌いです」

「では、お嬢様」

「ケンカ売ってる?」

「貴女の負けは明白ですが」

「で。何でしょう?」

腕組みをした時点で、こっちの負けと等しいが絶対に認めない。



当社の最上級ラインの男性ブランドのスーツに身を包み、ネクタイだけがバーバリーという彼。


奥二重の目が印象的なすっきり顔は、態度と同じくいつでも冷静。


誰に聞いてみても口々にこう言う。――敵に回したくない男だと。


そんな面倒くさい人物と分かっていながら、真っ黒な瞳と目が合えば対抗心を駆られるのがこの私。


自分でもよく思う。これはもうバカのひとつ覚えではないかと。


「あかねさんが20時には準備しておくようにと」

「ご丁寧にありがとうございます」

遜って言えば、それを鼻で笑うのがこの早水という男だ。


「お礼を言うより、早く老害を一喝できるようになって下さい」

「……」

「苛つくとすぐに瞬きが増えますね」

小言ばかりで行動の遅い役員連中を、老害と簡単に言いのけるアンタの方が恐ろしいわ。


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