みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
もちろん年上なので口には出さないのだが、どうやら態度には出ているらしい。
仕方なく根負けしたところで、速まっていた瞼の上下運動を一旦停止する。
そんな私は、齢32にして一企業の役員を務めている。役職と実力が伴っていないのは、自他ともに認める限り。
「ナチュレル、今季の売上目標をギリで全店達成しましたね」
「……貴方のお陰です」
さんざんいたぶられたところで、仕事の話へあっさりシフト。その絶妙さで嫌いにさせないのが、この男の凄いところ。
――OLの通勤服として定番化したブランド、ナチュレル。
シンプルでありながら上品。着回しのきくデザインも定評を博している。価格帯は日常で着倒せるように、と1万円程度のラインを貫いていた。
価格はもちろんのこと、家庭で洗濯できる素材やデザインが多いのも特徴。
オフィスコードのクリアはもはや当たり前。当然アフターは気を抜けず、休日だって上手くコーデに用いるのが現代の賢い働き女子だ。
そんな日々頑張る彼女たちの願望を叶えようと奮闘しているのがこのブランド。つまり、愛しきナチュレルは当社の看板といっても過言ではない。
エレベーターを降りた私たちは、社員と会釈を交わしながらロビーを抜けて行く。
予め玄関に横付けしてあるのは私の愛車、黒のポルシェ911カレラの黒。
いつものごとく運転席には早水が、私は助手席に乗り込んで出発した。