みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
通話を終えたスマホはバッグに放り込み、ハンドルを握る運転席に目を向けた。
「戯言抜きでのお知らせどうも」
「どういたしまして」
“ありがとう”さえまともに言わない。そんな私を入社以来フォローしてくれるのが早水。
右も左も分からなかった世間知らずの小娘を、社会の第一線にのし上げてくれたのは彼だ。
ふたり姉妹の長女として生まれた私。両親に好きなことをして良いと言われて気ままに過ごしてきた。
そのため大学では会計学を専攻し、大手の監査法人を就職先に選んだ。そこで私はベテラン公認会計士として知られる上司についていた。
ちなみに公認会計士の試験をパスしていたため、監査法人に認められている実務補習はまさに一石二鳥。
まtクライアントの案件が重なれば、帰りが深夜を越えて徹夜になるのもザラ。確かに激務だったけど苦には思わなかった。
そんな毎日と決別することになったのが、社会人3年目の冬のこと。
大好きな父が難病を発症したのだ。徐々に筋力が衰え、近いうち寝たきりになる身体では何もできない。
『残念だがこの身体ではもう身を引くしかない』、と知らされたのだ。