みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
「なにも脅しで言ったんじゃないわ。今の日本はどの企業、どの業種でもその憂き目を見てる。
それも信用がおける、と言っても誰に託すつもり?金が絡むと人って変わるものよ?
言い方悪いけど、プロ(私たち)から見ればパパの会社は数字や内容は惹かれるものが多いの。
狙われたら最後。そんなの嫌だし、純粋に守りたいと思うのはダメなこと?
もちろんお母さんとお父さんのお陰で、私は好きなことをさせて貰っていて心から感謝してるわ。
だけど、それとこれとは話が別。――私はパパの会社に入社しなかったけど愛着はあるから止めて欲しい。
大事な経営権をパパのポリシーに反する人にみすみす譲渡するのは嫌よ」
別に母たちに怒っていたんじゃない。ただ諦める前に、もっと早く娘である私にも相談して欲しかった。
もちろん仮想の話ではない。会計事務所に勤めていると、そういった場面には何度も出くわしていた。
確かにファンドへの売却は双方に利点があるように見えるが、結局のところ乗っ取られも同然だ。
「――つまり、ご自分で守りたいというのでしょう?」
「……仰るとおりです」
尊敬する父が一代で築き、大切にしてきた会社に社員。父のようには出来なくても、守る手助けくらいは私にも出来る。
そんな私の結論をかっさらってくれたのが、父の傍らにいた当時29歳の早水。