みだりな逢瀬-それぞれの刹那-


ちなみに早水とは当時から自宅やパーティーなどありとあらゆる場で顔を合わせていたし、挨拶程度の会話も交わしていた。


何より大事な家族会議の場にまで参加させるくらい、父は彼のことを心から信頼していたのだ。


「ご意志は固いようですね」

頷き合った彼と父は結論をそこで出した。そう、かくして私の社会人としての新たな日々が始まったのだ。


もちろん、始めから順風満帆なものではなかった。まったくの畑違い、しかも経営を学び始めたのだから……。



ちなみに早水といえば、入社直後の私に対して「自分の居場所は自分で作って下さい」と言ってきた。


その言葉の通り、滅多なことでフォローしてくれなかったし、恥ならまだ良いが大損失やら失敗ごとは数知れず。


すべての事柄を理解するまでにまず3年は掛かったし、今でも何かあると“すねかじりの2代目”と陰で言われてるのを知ってる。


思い出すと身震いするようなことばかりの毎日だった。ただ何があっても、這いつくばりながら今日まで頑張ってきたのは事実。


あと父がこっそり教えてくれたけど、早水が陰で反対する周囲を説き伏せてくれたらしい。その他は少々難ありだが、やっぱり恩義を感じている。


何より父の意志を裏切りたくないし、会計士を諦めた自分の意志はこれ以上曲げるつもりはない。


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