みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
でも、オートクチュールのドレスにヴァンクリの新作時計にしても。彼女の纏うそのどれもが、自分で稼いだお金で買っていないのに……。
引退して闘病中だった父が亡くなってから、もう1年と少し経つ。
如何にこの家が、父の大らかさと優しさに包まれて平和だったのか。それがよく分かる。
何よりあんなに多忙でも、どれほど私たちに愛情を注いで育ててくれたのかも。
「――最早あかねさんは、世界の地軸がご自分中心でしょうね」
「……やはり、そう思いますか」
「十中八九」
それに頷くと、目の前の大きなアンティークの鏡越しに正装をした彼を見る。
「奥様方の後を追って、我々もそろそろ参りましょうか」
「え?置いていったの!?」
――ありえねー!なんて横暴な親子なんだ!いくら怒っても淑女は水に流せ!
彼によると、ふたりはそのままハイヤーでパーティー会場へ向かったらしい。
そもそもの話、怒りたいのはこちらの方だ。懐古して落ち着きかけた苛立ちも再燃してきた。
私たちはキツキツの予定を無理に切り上げて、妹の体裁を整えるためだけにパーティーに出席するというのに。
「さあ時間がありませんよ」
そんな私とは対照的に、淡々と促す彼こと早水に従って部屋をあとにする。
お手伝いさんに笑顔で見送られながら、私たちは愛車のポルシェ911・カレラに乗り込んだ。