みだりな逢瀬-それぞれの刹那-


大好きなロックの名曲が流れる中、車内はそのハードなテンポとは真逆のところにいる。


いっそ踊り狂って憂さを晴らしたいとこだけど、彼の方が迷惑千万だろう。


「すみませんね、面倒ごとまで」

「いえ、約束ですから」

「……そうね」

ツキンと小さな痛みを覚える。私は短く返したのち、車外の喧騒に目を向けた。



こんな気分の時に聞きたくなかった。……早水が“約束”のフレーズを口にする度、自分の価値を思い知らされるから。



亡き父に仕えていた早水は、前社長への恩義と忠誠心で私の子守をしているのだ。


そもそも一社員がここまでする必要ない。このロスタイムがなくなれば、抱えている他の業務時間に充てられる。


それは私が一番よく分かっているのに。彼のチャンスを踏みにじっているひどい女だ。



「ボーッとしてると愚痴る時間が減りますよ」

すると正面を見据えてハンドルを握る男のひと言が車内に響く。やっぱり早水は今日も私を甘やかす。


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