みだりな逢瀬-それぞれの刹那-
その弾みでバッグは床へと落ち、パンプスは片方が脱げてしまう。普段は広々とした外国製ソファもさすがに狭い。
バタバタと足を動かして抵抗を試みものの、両手首を捕らわれては効果がなかった。
「皇人ー!」
ムードのかけらもない声で「退け!」と繰り返すが、これも全く意味ナシ。
「もう逃げるな」
「……え?」
すると、目の前に迫った男が真顔で言うから動きをピタリと止めた。
どうでも良いが、ご評判通りに腹黒男の顔は整っているため迫力満点でもある。
トントン、とその時ドアをノックする音が室内に響く。叩き方で分かってしまうのは、もはや長年のクセだと思いたい。
動揺する私をよそに、「どうぞ」と許可したのは上に覆いかぶさる皇人だった。
――ちょっと待て!この怪しい状態で平然と許可すんな!
ガチャリ、と音を立てて一方のドアが開く。その時に、「失礼します」と言う声音は実に穏やかなもの。
「…あ、」と耳に届いた小さな声は、やって来た早水には珍しい反応である。
「9時ジャスト。さすが忠実だね」
しかし、早水よりも大きな皇人に乗っかられている現在。もはや壁と化した男のせいで、私から早水の様子は窺えない。