奪取―[Berry's版]
 熱を出し唸っている従兄弟の尻を叩いても良かったのだが、喜多は自分の足を向ける方を選択したのだった。本日の習い事には、ほぼ女性しか参加していない。一応、念のための確認と言ったところだったことが理由でもあった。そして、もうひとつ。煮詰まってきている仕事の気分転換にも、丁度いいだろうと思ったのだ。

 平日の昼間。ビジネス街であるこの地に、スーツを身に纏った会社員がひとりでいることはなんら違和感はないだろう。喜多は、とあるカフェに腰を落ち着かせていた。夫人の習い事が行われているビルの出入り口が、目の前のガラス越しに確認が出来る位置だ。
< 127 / 253 >

この作品をシェア

pagetop