奪取―[Berry's版]
 今の喜多は、普段と少しだけ風貌が違っていた。知人に見られて困るわけではないが、万が一にもターゲットである夫人に自身の素顔が記憶に残らぬよう警戒してのことだった。いつもは流している髪も、無造作に逆立てている。淵の厚く濃い色の眼鏡は、意識をそちらへ集中させる役割もあった。 
 喜多はカウンターにモバイルパソコンを置き、電源を入れ立ち上げる。その隣に置いた、注文したばかりのコーヒーが入ったカップを手に取り、一口流し込みながら。喜多は意識をガラスの向こうへと集中させる。
 さて、そろそろだろう。
 パソコンに仕込まれている小型カメラで、ビルの出入り口を捉える。ディスプレイには、喜多が視界で確認できている映像と同じものが表示されていた。自動ドアが開き、数名の女性が姿を見せる。
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