奪取―[Berry's版]
 瞬間。喜多の呼吸が一瞬止まった。眩暈を起こしそうなほどの衝撃を感じ、喜多は眸を瞠ったままに、ただ呆然と目の前の情景を眺めていたのだった。

 ※※※※※※

「どうしたの?」

 ひと月振りに再会した春花が、ワイングラスを手にしたまま目の前にある食事を口にしようとしない喜多に問いかける。弾かれたように、喜多の眸が春花を捉えた。思わず、春花は眉を上げる。あまりにも無防備すぎる喜多の姿が、酷く珍しかったからだ。
 ふたりの関係が始まってから、喜多は春花に隙を見せることはなかった。どれ程、仕事が忙しくとも、突然の連絡にも、だ。もっとも、ふたりが互いのことを詮索することはほとんどないのだが。
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