奪取―[Berry's版]
 春花の問いかけに、喜多は小さく頭を振って答える。

「悪い……ちょっと最近色々忙しくて。ぼおっとしてた」
「……体調が悪いとか?」
「いや。そういう訳じゃない、大丈夫だから」
「ふうん」

 訝しながらも、春花はそれ以上の追求はしない。現在、春花はまだ全国ツアーの真っ最中だ。本日はその合間に少しだけ時間が取れただけのこと、明日にはまた厳しい日程が待っている。喜多の口を割らせるには、体力的にも、時間的にも。今はその余裕がない。
 大きな休みがあるのは、まだ数週間も後のこと。その時も同じような腑抜けであったなら容赦はしないと思いながら、春花は目の前の料理をひとり楽しむことに集中していた。

< 130 / 253 >

この作品をシェア

pagetop