奪取―[Berry's版]
 緊張からか、期待からか。心臓が痛くなるほど激しく鼓動を繰り返す。ビルの出入り口付近の壁に背を預け、喜多は思わず左胸辺りを掴んでいた。馬鹿なことをしている自覚はある。今更、何をやっているんだと、自分の中にいる自分が呆れている姿すら浮かんでいる。だが、それでも……。

 自動ドアが開き、先日と同様数名の女性達が姿を見せた。うち、ふたりは和服姿だ。皆、口々にお疲れ様と労いの言葉を掛け、方々へ散ってゆく。ひとり、その場に佇んだままでいる女性の後姿を、喜多は凝視する。見覚えのある、立ち姿。懐かしくも感じる、後姿。
 不意に、突風が吹きぬけた。喜多の視線を惹きつけていた和服姿の女性が、油断していたのだろう、ふらつき転倒しそうによろめく。
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