奪取―[Berry's版]
 喜多の告白を聞き、春花は呆れを通り越し、可笑しくさえ感じていた。この男は、何をもがいているのだろうかと。今、自身の顔を鏡で確認することが出来れば、覚悟を決められることだろうにとも。喜多の眸が、弧を描く唇が、零れる言葉が。今まで見たことがないほど、優しさに溢れ、彼女が恋しいと訴えていた。
 ソファーの背に頬杖を付き、春花は口を開く。

「私、もう喜多のこといらないわ」

 眸を開き、喜多は春花を見つめる。視線の先に移る彼女は、不機嫌でもなく怒りを顕にしている様子もなかった。少しだけ皮肉げに、眉を上げていただけだった。
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