奪取―[Berry's版]
「逃がしたわけではないけれど。結婚はしてない。それに、まだ付き合ってもいない」
「はあ?5年もの間、何やってたのよ。人がせっかく背中を押してあげたのに。指を咥えて見ていたの?」
「……環境整備をね」
「環境整備って……道路工事じゃあるまいし。随分と時間もかけて、まあ。その間、どこぞの誰かに、よく浚われなかったわね」

 既に温くなっているコーヒを一口流しこんでから、喜多は答える。少しだけ、気まずさを感じながら。

「再会したあの頃。衝動に駆られるまま彼女へ手を出して、一時は自分のものに出来たとしても。最後には、彼女の手を離さなければならない結果を迎えていたと思う。自分の立場を守ることは出来ても、彼女に降りかかる火の粉を振り払うまでの力はなかっただろうから。攫うことは簡単だ。けれども、将来の保障も、約束すら出来ずに、相手を自分の人生に巻き込むのは。不実だと思うから。俺は」
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