奪取―[Berry's版]
「……変なところで真面目なんだから」
「彼女には、しなくていい苦労も、見なくていい人間の汚い感情にも触れさせたくなかった。俺が生きてる世界は、そんな世界だから」
「真綿で包みたいほど大事な人だものね、喜多にとって」
「それに。俺が足踏みを続けている間に、もし彼女に愛する人が現れたのなら。それも仕方ないことだと思っていた。当時の俺は」

 喜多の言葉に、春花は目を剥く。自身の常識では測れない話を耳にしたような驚き様だ。瞬きすら忘れ、春花は喜多に問う。

「どういう意味?」
「彼女の隣に居るのが、俺ではなくとも。彼女が幸せならばそれでいいと思ったんだ。彼女にとってではなくて、俺にとって。彼女は唯一の生涯の愛しい人だと気付いたから」
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