奪取―[Berry's版]
ビギナーである絹江が張り合える相手ではないと頭ではわかってはいるのだ。しかし、自身だけがギリギリのところまで追い込まれている現状を素直に受け止め、直視できるほど。絹江は強くなかった。
 
 真っ暗な視界の中。絹江は再び、手の温もりを感じる。喜多が絹江の手を取り導く。着地した場所は、喜多の胸の上。左胸、心臓の真上だ。掌から鼓動を感じ、絹江は眸を開いた。捉えた喜多の表情に、変わりはない。穏やかとも、余裕とも思える笑みを浮かべている。だが、掌から得た情報は、それを大きく裏切っていた。
 自分と違わぬほどに、忙しなく、これ以上ないほどの速さで。喜多の心臓は拍動を繰り返していたのだ。

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